キットラー『グラムフォン フィルム タイプライター』

読了。ニーチェカフカはタイプライターを好んだって話はおもしろかった。
タイプライターは女性である。というのも、タイプライターにはタイピストの意味もあるらしい。
女性秘書という職業の誕生。男が口述し、女がタイプする、という図式。
80年代の中頃、勤めていた会社にはキーパンチャーの派遣女性たちがいて、いまでは信じられない話なのだが、私が用紙に鉛筆で書いたPL/Iのプログラムを、彼女たちがタイプしていた。男がキーボードを直接操作することは滅多になかったのだ。ワープロもしかりで、手書き原稿をワープロで清書するのは女性の仕事だった。
こうした図式を一気に変えたのがパソコンだった。パソコンはコンピュータ処理におけるジェンダーバイアス脱構築した。男の脳と女の指の間の垂直な権力が、脳と指先が直結することによって脱性化された。
脱性化? パソコンを好む(はては淫する)男とパソコンを疎み遠ざける男。これは男の女に対する典型的な態度とパラレルだ。むしろ、パソコンと親和的な性として、オタクが第三の性としてあるとしたらどうだろう。
オタクという第三の性の特徴として、身体に対する感性の鈍さがあるように思う。メディアとは写像であるのだけれども、メディアに写像される身体は、身体に写像されるメディアである、という相互規定があるのだ。